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紅色に染まった世界を背景に、一人の少女と一人の巨漢があたしを見下ろす。
激しい頭痛と共に精神が崩壊しかけていたあたしに、その二人の威圧というのは耐えるに値しないもので。
フラフラになった身体と、妙に疲れる神経のせいで瞼は自然と重くなる。
「返し、...て、あた...っし、」
耐え切れなかった眠気に、瞼を下ろし、完全に外の世界を遮断してしまう。
...それなのに何故だ。
意識はない筈なのに、声だけが聞こえる。
全ての音や臭い、味覚は遮断されている筈なのに、声だけは頭に直接語りかけられているかのようにはっきり聞こえる。
「...悪ぃな。おやすみ、嬢ちゃん」
そして、最後に聞こえたそれは巨漢の謝罪の言葉。
***
「───ん、イチさん!!」
「...........っへ?」
小声で呼びかけるナルのおかげ、あたしはどこかへ飛んでいた意識を取り戻す。
...驚いた。
過去の記憶をこんな時に思い出すなんて。
絶対に許せない、忌まわしき真実。
こんなんじゃあたし、だめだめだな。
「どうしたんです?ボーっとして」
「ああ、いや。大丈夫。ごめんごめん」
怪訝な顔で窺うナルを、ヘラりと笑いながら否定する。
それを見たナルは、小さくため息をついて前へと向きを直す。
「そんなんじゃ、信じたくても信じきれないじゃないですか」
ナルの呟きは、誰の耳にも届かず空の彼方へ消えた。

