そう言えば春野さん、今一人称が“僕”だった。
“私”と言っていたのは、あくまで礼儀だったのだろうか。
あたしは、依頼先の能力者に含まれてない、とでもいうのか。
そう思うと、少し不服だ。
「おし、じゃあ建物の中に入るぞ」
前で、ハルが小声で合図を出す。
...目の前にある大きな建物は、廃墟か何かだろうか。
あたしたちのところは隠れるようにひっそりと建っているのだが、ここは正反対だ。
隠れるなら溶け込むべき、という考えだろうか。
あたしはフードを被り、ハルはマスクをする。
ナルはあくまでも“春野さんと一緒に届けに来た人”を演じるつもりらしい。
初めて足を踏み入れる場所に胸の高鳴りを感じながらも、その音を聞こえないようにして落ち着いて進む。
廃墟と化したその場所は隠れるための部屋などが多く、見つかりそうになってもすぐに隠れることができる。
...本当に、人が多い。
少し歩いただけで、ただ喋っている人が必ずいる。
警戒されている訳ではないのだが、侵入している、と考えると余計難しい気持ちになる。
「次、階段だから隠れるとこないぞ。絶対見つかんなよ」
ハルが後ろ目に言い、前方を確認してから小走りで進む。

