ノンストップメモリーズ





「話の前に1ついいか?」

「なんです?」

「依頼を完遂したら、俺たちの記憶は消させてもらう。依頼完遂の事実だけが残ることとなる。それでも良いですか?」


能力者は、自分の証拠を徹底的に消滅させることが暗黙の掟のようなものとなっている。

全ては、政府に捕まらないためなのだが。


他の組織では初めから顔を隠し、拠点には人を近づけないのだが、桜は違う。

街に認められていることもあり、組織の拠点はバレても悪いことはないらしい。

さらに、ナルの能力があるから顔バレしても大丈夫なのだという。

なんというか、すごく良い場所だ。


「ええ、結構ですよ」

「それなら、良かった。話を中断させて申し訳ない」


ハルがやんわり謝ると、春野さんは伏せ目がちに話し始めた。


「私は、荷物を届けることを頼まれたんです。報酬として見たこともないくらいのお金を前払いで貰った。...でもその荷物、ある能力者組織が血眼になって探しているものらしいんです」

「そんなの、その報酬見た時点で怪しいなって思わなかったの?」

「いえ、むしろ絶対に何かあるものだと気付きました。...でも、頼まれた相手は昔からの友人。断るに断れなかったんです」

「ふうん...。で、その報酬使って僕たちに依頼に来たという訳ですか」


あたしとナルが無遠慮に質問をぶつけると、春野さんは苦笑しながら答える。


「その荷物は、箱の中に入っていて私も絶対に中を見るなと言われていて...」

「ま、怪しいモンあるあるだな」

「...で、届け先は?」

「......能力者組織“椿”です」


春野さんがそう言った瞬間、全員の動きが、一瞬止まった。