「......ネーセンないんだね」


やっぱり、ちょっと、残念な感じだった。

数字じゃん!

ちょっとツッコミたかったけど、一生懸命考えてくれたのに申し訳なかったからやめておいた。


イチ、...イチ、かあ。


「なんでイチになったの?」

「え、だって“千衣”ってひっくり返したらイチじゃん」

「...それだけ?」


...なんかやっぱり残念だったけど、ミノッチより絶対にいい。

それに、シズがせっかく考えてくれたあだ名だ。

大事にしようと思う。


路地を出ると、空が薄暗くなってきているのが分かった。

最近は暗くなるのが遅くて助かる。

風は、さっきよりとても冷たい。


道には、隣にシズがいてくれるから迷わなかった。

後は真っ直ぐ進めば学生寮が待っている。


「...ねえ、なんであだ名を考えようとしてくれたの?」

「だって何も考えず“チイ”とかにしそうだったし。お前の名前知ってるのは俺だけで十分だ」

「た、確かに...」


確かに、そのとおり、かもしれないけど、

何だその恥ずかしい台詞は。

しかもそんな笑顔で言わないでほしい。


無言のまま俯いていたら、いつの間にか学生寮の前まで着いていて。


「じ、じゃあ!また学校で?!」


...くそ、調子悪いのかな。

最後の方、声が裏返ってしまった。

しかもシズはクスクス笑っている。


なんでコイツの前だとこう恥ずかしい思いをしてしまうのかな...!!


「おう。明日は学校行くから。じゃあな」


片手を上げてお別れすると、門を通って女子寮へ入る。

今日は色々なことがありすぎて気疲れした。

...その分、楽しかったけれど。

その日は、風呂に入ってすぐに眠ることにした。