───こんなに自分の感情を理解できたのは、初めてだ。
怒りを言葉と行動で表しながら、こっそり笑う。
シズは一生懸命謝ってきて、ハルさんはふてくされてる。
「思ったことを言っただけじゃねえかよ」
ぼそりと言った言葉も聞き逃さない。
────ああ、なんだ、すごく楽しい。
あたしもちゃんと、心から楽しいと思えるじゃないか。
此処に来て良かった。
桜の仲間にしてもらえて良かった。
最高の場所だ。
一通り喧嘩した後、お互いに反省し、それぞれの帰路を歩む。
「じゃあまたね、は、...ハル!!」
「っ!お、おう」
駄菓子屋の入口で、同じ方面のあたしとシズはハルさん...ハルに挨拶する。
“ハル”と呼び捨てにするのは自分でも躊躇われたが、案外普通に呼べてよかった。
ハルはといえば、口を手で抑えて片手を上げた。
その姿をばっちり見送り、シズと歩き出す。
「なあ、お前、前まで“ちーちゃん”って呼ばれるの嫌がってなかったか?」
と、突然シズが昔の話を始めた。
確かにあたしは、“ちーちゃん”と呼ばれるのを嫌がっていた。
きっと、さっきハルが呼んでいたことを示しているのだろう。
もしかすると気にしてくれていたのだろうか。
その事を覚えてもらえていただけでもすごいのに。
「“ちーちゃん”って呼ばれると、ある人のことを思い出すんだよ」
「...母親、とかか?」
「違う、けどもう大丈夫なんだ。“千衣”って名前を大切に呼んでくれる人がいるから」
そう言えば、シズは黙り込んでしまった。
何を考えているのか、あたしには皆目見当もつかないが。
「...シズも、その一人なんだよ」
シズに聞こえないくらい小さい声で言ったら、シズが直ぐに言葉を放った。
...聞こえたかと思って、ちょっと焦った。
「......、あ!ミノッチは?!」
「......は?」
「だから、ミノッチ!名前!“ミズノチイ”から抜き出したらそうなった!!」
「却下」
全然違うことを言い出すから、何事かと思った。
...けど、ミノッチって。
さすがにないよね。うん。
シズの残念なネーミングセンスを哀れんでいたら、今度はさっきよりも「キタ!」って顔をして言った。
「じゃあイチ!イチってのは?」

