「ところでさ…さっきからあの人
ずっとこっち見てるんだけど…」


清美が居心地悪そうに
窓際に座っている男の人を指差して
耳打ちした。
ばれないように
私と玲奈はこっそりチラ見する。

本当だ…なんかずっとこっち見てる…



講義が始まっても
その男の人の視線をすごく感じた。
でも、誰を見ているのか
わからなかった。
清美?玲奈?私?
でもきっと、玲奈の事だろうな。


講義が終わり、続々と人が出て行く中
その男の人は
とうとう私たちのところへ来た。

「来たよ!」

清美は玲奈の影に隠れながら
興味津々に男の人を見る。


「ちょっといいかな。」

無造作パーマのかかった
少し長めの茶色い髪。
背も高くなかなかイケメンだった。

「菜々穂ちゃん!」

私は一瞬え!?と肩をビクッと揺らす。
てっきり
玲奈に声がかかると思っていたから。

「俺、同じ3年の
山崎 恭平(やまざき きょうへい)
菜々穂ちゃん
金曜日のパーティー来てたっしょ?
いつもに増してすげぇ可愛くて…
もしよかったら
俺とデートしてもらえないかな!?」


「よかったじゃない。」と
玲奈と清美はニヤニヤしている。

「か…かまわないけど…。」

そう言うと、山崎くんは
私と連絡先を交換して
次の講義に行ってしまった。

「私は米村教授のとこ行くね。」


清美もバタバタと机のノートをしまい
一度私たちに笑顔で手を振って
行ってしまった。


残された私と玲奈は
カフェに行くことにした。

「山崎くん、高等部の時同じクラスだったことあるわ。
高校の時帰国入学したのよ。」

私たち3人は
この大学付属の幼稚舎から一緒だった。
幼稚舎からいる人なら大体わかる。
でも、彼に見覚えがなかった。
彼が帰国子女だったから
同じクラスになった事が
なかったってことか。


「へぇ…帰国子女かぁ…どんな人?」


「明るくて気さくな人よ。
あの顔で性格いいから
けっこう女の子に人気あるわよ。」


玲奈が特に悪い噂を知らないなら
変な人じゃなさそう…
金曜日の爽やか男みたいに
見た目爽やかでも内面が欠陥の人も
いるからなぁ…

私は携帯のアドレス帳を眺めた。
山崎くん…か。