車は達央の住むマンションの地下に停められた。
達央は車から降りると後ろに座っている優花の腕を掴んで
下ろすと無言のままエレベーターのボタンを押した。
言いたい事をぐっと堪えている様な顔だった。
今までにない達央の様子に優花は何も言葉をかけられなかった。

エレベータ―は達央の部屋のある階までノンストップだった。
その間も2人に会話はなかった。
だが、達央が部屋の鍵を開け中に入った途端。
優花は達央に抱きしめられた。
それは苦しいほどに強く
「た・・達・・央・・さん?」
「そんなに楽しいか?」
達央の言っている意味がわからずしどろもどろになる。
「え?あ・・あの・・」
「俺の心を掻き乱すのがそんなに・・・楽しいのか?」
掻き乱す?
掻き乱したつもりのない優花は訳がわからない。
「私・・・そんな事・・・」
「電話もメールもなし・・・久しぶりに会ってもステージからは
確認できないから優花に俺の気持ちを伝えたのに・・・そのまま
帰るとか・・・もう勘弁してくれよ」
「え?」
正直そんなつもりなどなかった。
確かに電話やメールは
自分の気持ちをわかってくれない達央に対しての意地でもあった。
だけどステージの上で達央が自分だけのために言葉を発してくれたことは
うれしかった。本当はすぐにでも会いたかった。
だけどそれは自分の我儘ではないかと思ったから敢えて会いに行かなかった。
2か月の長いツアーともなれば打ち上げだって盛大に執り行われる。
たくさんの人に支えられて無事にツアーファイナルを迎えられた。
そんな人たちの中に自分は入れないとおもった。
私は何もしていないから・・・