果絵が指さした方を見るとキャップを目深くかぶった細身の男性が
車にもたれてこっちを見ていた。
「嘘・・・」
細身の男は達央だった。
しかも笑っているようには思えなかった。
だが横にいる果絵はその場で固まってしまっていた。
優花たちに気がついた達央はポケットに手を入れたまま優花たちの方へ
歩いて来る。
心臓がバクバクする。
それがうれしいものなのかヤバいと思ったのかよくわからない。
多分半々だ。
そんな優花の気持ちなどわかっているのかいないのか
果絵の目には星が出ているかのようにキラキラしていた。
「こんばんは。君たち何処へいくのかな?」
言い方は優しいが刺々しさを感じる。
や・・やばい。
これは何だか機嫌が悪そうだ。
「帰るところなんですが・・・」
何を言っても怒られるのだろうと思った優花はそのままを伝えたが
「それは君の家?それとも俺んち?どっちかな?」
こ・・怖い・・怒ってる?
「・・・・自分の家・・だけど」

達央はふーっと息を吐くと口角をぐっと上げて
「優花のお友達ですよね。」
果絵に話しかけてきた。
「は・・はい。優花の友達で安田果絵って言います。」
「果絵さんもライブに来てくれたんだよね。ありがとう」
頭を下げる達央に果絵はあたふたしながら頭をあげてくださいを連呼していた。
「もしこの後そのまま帰るなら送ってあげる。」
「へ?」
思いがけな事に果絵は驚くばかり。
「僕さ・・・この人とだ~~いじな話しもあるし・・・とりあえずあの車に乗って」
果絵の肩を押すようにして誘導する。
その後ろで優花はドキドキしていた。
今のドキドキは何が起きるかわからない恐怖にも似ていた。
果絵を車の後部座席に乗せると達央は優花の方をじっと見た。
その顔は言いたい事や聞きたい事が山ほどあるよって顔だった。
「さ~~優花も早く乗ってね」
優しい声の達央に優花は身震いした。