少しだけ窓を開けると体育館の方から音が漏れてくる。
歌なんか聞こえない。
聞こえるのは歓声だけ。
・・・アイドルみたい・・・
フッと笑うとまた窓を閉めて売り物用の寒天をひとつ口に入れた。
「留守番してるんだからこれくらい罰当たんないよね」

それから20分くらい経った頃陽子が興奮冷めやらぬ表情で戻ってきた。
「ごめん!1曲だけって言ったのにかっこいいから全部聞いちゃった」
全くかわいいな~~陽子は。
優花とは正反対でとてもかわいい陽子。
きっと川久保君も陽子みたいな子が合うんだろうな・・・と思う。
「いいよ。どうせお客さんなんかいなかったし・・・」
「でも見たかったんじゃ・・・」
優花は首を横に振った。
「ほんと?じゃあ・・休憩行って来てよ。みんな戻ってきたし
優花の分まで頑張るから・・・」
別に休憩いらないのに・・・と言いたかったけど
せっかくの厚意を無駄にしたら申し訳ないので
休憩することにした。

・・・といって教室を出たのはいいけど
独りでまわるのって本当に寂しいというか楽しくない。
優花は人気のない教室の方へ歩き出した。
視聴覚室の前を歩いていると前から物凄い勢いで走ってくる男が見えた。
男は優花を見るとパッと顔を明るくして
優花の方に向って速度を上げた。
そしていきなり
「かくまって!」と言った。
何が何だかわからずキョトンとしていると
「誰か来ても俺を見なかったと言ってくれればいいから」
機関銃のような速さで言いたい事だけ言って視聴覚室の中に入っていった。
それから間もなく階段を駆け上がるたくさんの足音と黄色い声が聞こえてきた。