『殺してよ！』

『私なんか産まれなければ良かったんだ！』


大きな声が家中に響き、その後少し静寂があって

母親の泣き声が聞こえてきた。

最初に叫んだのは『由美』高校３年生の女の子である。

由美はそのまま自分の部屋に閉じこもった。

母親はなすすべも無く泣きながら我が子を追えなかった。


由美の家庭は平凡な家庭だ。

父親と母親と姉と兄

由美の絶叫には訳があった。


由美は幼い頃から末っ子として、家族に可愛がられていた。


高校３年生になり、大学進学を考える時期になった時に

父親が倒れた。


由美は大学に進学出来るものだと思い込んでいたし、勉強も寝る間を惜しんで頑張っていた…が、父親が倒れた事により、それどころでは無くなってしまったのである。


由美は毎日毎日父親の付き添いの為に病院へ通った。

母親は入院費を稼ぐ為に昼夜を問わず働いた。


そんな生活になってしまって『大学の学費』など由美の家には残されていなかったのだ。

由美も学校が終わるとアルバイトへ通った。

兄と姉はようやく就職が決まったばかりで、家を出ていた。

由美は勉強とアルバイトと父親の付き添いと家庭の家事を全てこなしながら

疲れ果てていた。

母親も疲れ果てていた。

そんな折に学校からの進路相談の三者面談の通知が届き、


由美は爆発してしまったのである。

由美はどうしても『演劇関係のある大学に進学したかった』

しかし…

今の家庭の状態では、大学進学は無理である。

母親は多額の入院費を由美に見せて

一言


『由美…ごめんね…』


と


呟いた。



由美は自分の部屋で泣きじゃくっていた。

わかっていた事だから
大人しく
大学進学を諦めるつもりで母親に『三者面談』の通知を見せたのだが、


母親が

『ごめんね』

と謝った瞬間に

何故母親が由美に謝るのかわからなくなった。


無我夢中で過ごして来た由美にとって、

今までの努力が全て


消えてしまったような気持ちになった。


…受験勉強…すごく頑張ったのにな。
忙しい中
寝る間も惜しんで…