「......あ、また一緒......。」

高校生活最後のクラス替え。

名前の一覧の中には、見慣れた文字。

『瀬尾太陽(セオタイヨウ)』

君は、気づいているのかな。

きっと、気づいてないんだろうね。


......進級につれて三年目に突入した、私の気持ちなんて。


私は、嶺尾美月(ネオミヅキ)。

高校三年で、今、高校生活最後のクラス替えが発表されたところ。

「太陽、また一緒だな!」

「えー、またかよ!」

「瀬尾くん、同じクラスだね!」

「おぅ!最後だし、楽しもうぜ!」

男子や女子に囲まれていても、すぐに見つけられる。

私の片思いの相手、瀬尾太陽くん。

寝癖でついたという、ツンツンと跳ねた黒い髪。

鋭くて、でもどこか優しさがある目。

背は高いけど、少し猫背ぎみで......。

ニッと弾けるように笑う顔も、ニィッと何かを企んでいるような顔も......。

全てが、『あの日』から好き。


あの日......、確か、それは高校一年の夏。

街中が夕焼けのオレンジ色に染まって、輝いていたのを覚えている。

丁度季節が夏で、時間は確実に遅かったというのに、夕日が沈む頃だった。

私は高校には徒歩で通学していたから、自分のペースでゆっくり帰っていた。

「きゃっ!?」

夕日を眺めていると、急に通学鞄が手から離れた。

自転車に乗った黒ずくめの男が、高速で私の鞄を盗ったのだ。

......つまりは引ったくり。

中には財布やらスマホやら、大切な物を入れていた。

慌てて追いかけようとした時、私の横を何かが通り過ぎた。

「待て、コラァ!」

大きな背中に黒いツンツン頭、見慣れた制服が見えた。

......恐らく私の高校の男子だろう。

自転車相手にぐんぐん走っていく。

それでも追いつけないと踏んだのか、勢いをつけて引ったくり男に跳び蹴りをした。

「ぐっ......!」

自転車が音をたてて倒れるも、引ったくり男は鞄を持って逃げ出した。

「だから、待てって言ってんだよ!ボケ!」

......ふわり。

引ったくり男が追いかけていった男子に綺麗に投げられ、地面に叩きつけられた。

流れるように行われたその一連を見ていた私は、慌てて駆け寄った。

「これで懲りたか、アホ。」

パンパンと手を払っていた男子に駆け寄ると、その顔は知った顔だった。

「瀬尾くん......!」

「あぁ、やっぱり嶺尾だったか。ほら、鞄。」

「あ、ありがとう......!」

ニッと笑って鞄を差し出してくれた瀬尾くんに、私は慌ててお礼をいった。

名前、知ってた......!

頭の中はそれでいっぱいだった。

「よし、じゃあ帰るか。」

んーっ、と伸びをして、歩き出した瀬尾くんに、私は手を降った。

「あ、そうだね。ばいばい、また明日。」

笑顔で、普通に行ったつもりだったのに、何故か瀬尾くんは歩みを止め、私の 前までスタスタと歩いてきた。

首を傾げて見上げていると、

「何言ってんだよ。嶺尾も一緒に帰んだよ。同じ方向だし、もう遅ぇし。」

と、当たり前のように言った。

「ほら、行くぞ。」

「う、うん......!」


これが、私の恋の始まり。

あの後瀬尾くんは、さりげなく車道側を歩いてくれたり、私に歩幅を合わせてくれたりと、普通の男子にはできないことをさらっとこなしてしまった。

それが、更に私の思いを強くした。


瀬尾くんは、男子女子問わず人気がある。

困っている人には優しく接したり、かと思えば男子とからかって大笑いしたり。

顔が整っている、所謂イケメンな上に成績優秀スポーツ万能ときた。

紳士的な性格もあり、他校の人気も絶えないという。

そんな人に片思いをしている私は、所詮ただのクラスメイト。

そこまで話すこともないし、仲が良いわけでもない。

そんな私のこの気持ちが、報われることなんてない。