俺の呼び声に振り返った世里菜は目を丸くして立ち止まった。
「…ヒロくん…?」
信号待ちの人だかりが陽気な音楽と共に一斉に流れてゆく。
だけど俺と世里菜は見つめ合ったまま、どちらも動かなかった。
「…子供、居たんだ。」
勝手に口から言葉が落ちた。
「…あぁ、うん…。」
世里菜は俺の視線に戸惑いながらも
ベビーカーに座った赤ん坊を、愛しそうに見つめる。
急に崖から突き落とされたような気持ちが俺を襲った。
あんなに会いたいと思ってたのに。
「…今日は休み?」
とりあえず何か喋らなきゃ、と取り繕うように話を振った。
「うん。ヒロくんも?」
「俺は、毎日休みみたいなもんだから。」
「社長でしょ?いいの?そんなサボって。」

