「器、のひと……どこにいるか、わかる?」
「あぁ。」
そう言うと、床に足で円を描くようにして詠唱した。
“Θ?λω να ξ?ρω(私は知りたい)”
すると、そこに人間界が映った。
桃髪の人間と、黒髪の人間が居た。
髪型こそ違えど、目の色は同じだ。
それだけではないなにかを感じた。
確証はないが、一目で“器”と呼ばれる存在だと理解した。
「この組織は“エクソシスト”というらしい。神の声を聞ける者達だ。そして、現実世界に紛れた“夢魔”を払う者。」
神は二人の人間の胸元に掲げている紋章を指差す。
「あれが、証だ。」
“夢魔”とは、日本人が言う悪霊のようなものだ。
宗教上の夢魔とは違うものだと人間はいう。
悪夢を喰らい成長していき、次第に負の感情により力を持つようになる。
人間を乗っ取ることもある。
正体は悪魔の下僕であり、悪魔の精気だ。
「俺も、それを知っている。なんでも、その組織は各地にあり、能力がある者が集められるようだな。」
サタンが言う。
「此処には“器”が多い。貴様の器は見て解るように、他の奴等も居る。」
そう言うと、眉を寄せる。
「そこへ行って力を得るにしても、復活には時間がかかるぞ。」
既に血が止まりかけているタナトスの身体を見て神は言った。
「それでも、私は行く。」
ゼロははっきり言った。
「では、許可しよう。ただし、天界の者が下界に行くのは本来は控えるべきだ。あまり、影響を与えぬようにな。」
そう釘を刺すと、神は天に手を翳した。
“Π?γαινε. Στην ?λλη πλευρ? μια? π?λη?.(門の向こうへ行きなさい。)”
そう言うと、門が現れ、開いた。

門をくぐると、見慣れない空間だ。
人が溢れ、言葉が飛び交う。
「人間界、か。」
サタンの声で、今の場所を自覚した。
姿は両方とも人間の姿をしている。
かつて、大罪人として裁かれる前の姿。
忌々しそうにサタンは自分の手を見た。
そして、角や耳があった場所に触れる。
「……奇妙なものだ。」
「あの姿に慣れたからね。」
ゼロの姿は変わっていない。
「嘗ての姿ではないのか。」
「ふふっ、魂を支配する者は過去も未来も捨ててしまうのよ。」
サタンに抱えられているタナトスの身体に頬を寄せて、言った。
タナトスの姿は変わらない。
骸がほんの少し現実味を帯びたぐらいだ。
「だから、このまま。」