タナトスの身体は何本もの大きな刺のようなもので突き刺さり、宙に身体を浮かせたまま、血を滴らせている。
次第に、身体が少しづつ沈む。
その度にポタポタと雫が落ちた。
「たな、とす……」
刺に触れると、冷たい感覚とドロリとした感触がする。
「っ、た、なっ……タナトス、タナト、ス…………」
頬をいくつもの透明な雫が伝った。
「—————、……ぜ、ろ……」
苦しそうな声がした。
刺を伝う血がゼロの手を汚した。
「今、助けるから!!」
ゼロはそう言うと、呪文を唱える。
“ beseitige die, die hemmen(阻害するものを排除する)”
刺は消えて、タナトスが落下する。
サタンが容易く受け止めると、ゼロが駆け寄った。
「大丈夫よ。直ぐに治るわ。」
苦しさが伝わらないようにして言う。
「無様、ねぇ……」
喉奥でクククッと笑った。
「ゼロ。」
タナトスはそう呼んでゼロの髪の毛を掴んで耳元に唇を寄せた。
「死んだら、許さないから……ね?」
そこまで言って、苦しげに呻いた。
「無理しないで!」
「余計、な……お世話よ。この、泣き虫さん。」
弱くなっていく声はそこで聞こえなくなった。
「タナトス!!」
だんだん薄れる温もりを縋るように抱きしめた。
ぐったりとして、もう動かない。
「……」
ゼロが黙って立ち上がると、鏡が現れた。
サタンとゼロは鏡に向かって歩く。

神は無感情な目でタナトスを見た。
「……“器”、を見つける他はないな。」
「どういう意味?」
ゼロは首を傾げた。
「……大罪人は人間に自分の力の一部を預けている。それは、タナトスやゼロも同じことだ。力の均衡を保つ為、空席を作らぬように。」
神は淡々と言う。
「今のタナトスは力を失っている状態。器から力を貰うか、自力で復活するしか目覚める方法はない。あるいは、消滅するかもな。」
神は無感動に言った。
「許しを得ない者は魂の輪廻から外され、忘却の業を永遠に負い続ける。我以外、タナトスを忘れるだろう。」
「そんなのいや!」
ゼロはぽろぽろと泣いた。

神に使える者の死に方は宝石が砕けるように綺麗だと、何度か見て知っている。

神の光と朽ちていく刹那の美しさ

それを“救済”と、人間は言った。

けれど、許されなかった者はどう死んだだろうか。

どろり、とした血の感触が蘇って身震いした。