傍らの神の声は溜息を吐いていた。
ゼロの頬を涙が伝う。
《それは、タナトスの役目ではない。我が行こう。》
「無用よ。」
はっきりとタナトスは言った。
《聞こえているのか。》
「神の声を聞くのは私達の義務ですもの。」
(逆らった私にはもう、その権利はない。)
そして、自嘲気味に笑う。
「ゼロ。貴方の声も聞こえているわ。」
「じゃあ」
「でもね、貴方を殺すのは私なの。だから、出してあげない。」
クククと笑う声がした。
悪魔かタナトスか、あるいは両方か解らない。
「愚カナ奴ダ。ソレニ何ノ利益ガアル?」
その言葉を最後に、空間が歪んだ。

目が覚めたのは白い空間。
そこには狼の耳にユニコーンの角を持つ男と神が居た。
ここが、裁きの間であると直ぐに理解する。
「私……」
「あの後、大きな爆発が起き、汝を守っていた鎖が砕け、爆風で飛ばされた。亡者の餌食になるところだったところ、サタンが現れ、我が辿り着くまで亡者から守ったのだ。」
「約束だからな。」
神にサタンが不機嫌な顔で言った。
「タナトスの言うことは昔からよく聞くよね。」
「……黙れ。」
サタンは眉間に皺を寄せた。
「貴様をひとりにするなと言われた。」
「そう。」
ゼロは泣きそうな顔になる。
「タナトスは?どこ?」
「……悪魔とは、とっくに決着は付いてるだろう。だが、嫌なものを見たくなければ見ない方がいい。」
サタンはそう言うと神を見た。
神は唯、頷いた。
「そうだな。」
そして、サタンに歩み寄る。
「罪人を無断で開放するのは大罪だ。タナトスが罪を犯してまで、許した者。サタン、に我も許しを与えよう。」
「そうか。」
神が赤いリボン状の紐を渡すと、それだけを言ってリボンを身に付けてゼロを見た。
「タナトスのこと、気になるか?」
サタンの問いに無言でゼロは頷いた。
「こわい、けど。」
そう呟くと、サタンの裾を握る。
「いっしょ、いってくれる?」
「拒否は無い。」
ゼロにサタンが頷くのを見ると、神は手を翳した。
すると、鏡が出てきた。
二人は鏡に入って、タナトスの所へ行った。

悪魔と戦った場所には悪魔はいない。
恐らく、此処から追い出すことは出来たのだろう。
少し、離れた場所に人影が見えた。
「タナトス!」
ゼロが駆け寄る。
「……!!」
そして、息を飲んだ。