骸は冷たさを帯びて這い上がる。
声は上げない。
慣れたはずのことだった。

それは、“ただのゆめ”なのだから。

“オイデ、オイデ、愛オシイ——”

「!!」
ハッとしたようにタナトスは立ち上がる。
ガタン、と車内が揺れた。
よろめき、再び座る。
「どうした?」
「……うるさい。」
サタンに決まり悪そうにタナトスはそっぽを向く。
骸は消えていた。
僅かに震える身を抱えた。
「だいじょうぶ?」
ゼロは心配そうだ。
「余計なお世話。」
そう言うと、陸奥が鼻で笑った。
「文句がありそうね?」
「察しがいいな。」
陸奥は嗤う。
弱い者を馬鹿にした嗤いだと直ぐ解った。
ピリッとした空気が漂う。
「見て!」
それを壊すようにゼロが窓の外に目をやって言った。
「どうした。」
サタンは眉を寄せた。
「あれ……」
「!!」
窓の外には腐敗した大地があった。
それは遠く、僅かにしか見えない。
「見た様子だと、あれは事件の隣隣村だ……!何故、ここまで。」
陸奥は絶句した。

近くの駅ですぐに下車した。
「根源は何方だ!」
苛立つように村に踏み入り、陸奥が怒鳴る。
「落ち着いたほうがいいわよ。」
レヴィが窘めた。
「吾輩に指図するな。」
そう言ってツカツカと進む。
レヴィは喋るまいと言葉を飲んだ。
「焦り過ぎないようにね。」
ミューはにこりと笑む。
ふわりと濃紺の霧がかかった。
「!」
陸奥は両剣を構えた。
レヴィも臨戦態勢になる。
「ァアアアアアアア」
悲鳴にような声で無数の何かが襲う。
それは、形はない。
「霧……水分を凍らせれば行けるか。」
陸奥は剣を掲げた。
“絶対零度”
「はっ」
両剣を振るえば、氷の粒が舞い、霧は雪となって地に落ちた。
雪は地を這い、塊になる。
雪だるまのような濃紺の塊はケタケタと笑って突進する。
「いじわる……だめー!」
“Schatten(影よ)”
ゼロは白い影を出現させ、塊の動きを封じる。
「さって、僕もちょっとは動こうかな。」
ミューがにこりと笑むと、黒い影が槍のようになり、塊を射抜いた。
塊は消え、どろりと溶ける。
そこには何もなくなった。
「手間かけさせる。」
陸奥は不機嫌になる。
そして、手がかりを探そうと辺りを見回した。
“愛、オシイ——”
タナトスは声がする方を見た。
「なに?」
無意識に足を踏み出す。
「勝手な行動は控えろ。」