「タナトスと私は神に仕える時、全てを捨てた。与えられたのは姿という概念と生死の審判。神と同じく、詠唱により万能となる。けれど、神の恩恵の下のみ。故に、制限もされている。」
そう言って空を見た。
「……私はね、神様との“約束”だから、殺しちゃいけないの。殺すのはタナトスの役目なの。」
「神、か。信じちゃいねぇが。」
レイは下らないと言わんばかりだ。
「信じないなら、いい。でも、タナトスの為に私は戦うよ。」
そう言って、レイの前に立った。
「こんなとこで面倒な真似はごめんだが……喜べ。絶対的力で捩じ伏せてやる。」
“Multiplikation——Level<0>”
レイはそう言って手で空を切った。
影はレイを襲う。
「掛け算ってのはな……倍にするだけの能じゃねぇ。」
攻撃を打ち消すと、レイは笑った。
「他人の為の力か。ぬるいんだよ!」
「じゃあ、何のために戦うの?」
「決まってんだろ。自分の為だ。楽しむ為だ。」
レイはニヤリと笑う。
「誰かに左右されるなんざまっぴらだ。」
「そんなの、さみしいよ。」
「さみしい?ハハッ、馬鹿じゃねぇの?」
悲しげに目を伏せるゼロを嘲笑う。
「言っておくが、永遠に守り通せる存在なんざねぇよ。」
「だから、守ろうって思うのよ!」
「それで?守って、守って……先に死なれて終わるのか。」
レイは嘲笑う。
その表情に一抹の寂しさが混ざっていたことをミューは解ってた。
「先に死なれることに戦いた臆病者、か。」
サタンが言う。
「あ?」
レイは怒りを顕にした。
「俺は臆病なんかじゃねぇ。学んだだけさ。守るってのは、所詮無意味なことだってな!!」
そう言って、襲う影を打ち消していく。
「効かねぇな。」
「……むぅ。」
ゼロは膨れっ面をした。
「神に仕える者ってのは、この程度か?」
「私は、私は……」
ゼロは言葉を紡ぎかけてぽろぽろと泣き始めた。
「私、は……だって、だってぇ……戦いは、得意じゃないんだもん……でも、でも、たたかわなきゃ、タナトスがしんじゃうんだもん。」
ぐすぐすと泣き始めるゼロにレイとミューはぎょっとした。
「泣けば怯むと思ってんのか?」
「思ってないもん。」
ゼロは口を尖らせる。
「好きで泣いてるわけじゃない。」
どんぐり眼で睨む。
そして、考えた。
「いくら考えようとも、負けることには変わりねぇぞ。」