たぶん俺の中では、彼女は出会ったその瞬間から”ハル”だった。






毎月の決まった日に隣県へと向かう。


『鹿が出た』とか言って止まるような、それはそれは外的環境に弱いと不満を買っていることで有名な電車に乗って、女二人で暮らす家族に会いに行く。



言っておくが俺は高校二年生だ。


月に一度ホームシックになるような、重度のマザコンではないのだ、決して。


むしろ、高校へ入学するにあたって、じいちゃんと二人暮らしするようになってから、家の中で感じるストレスは遥かに激減した。


女の人というのは何かと色々難しい。


血が繋がっていても、性別の違いというのは生活する上で様々な配慮をお互いに必要とさせる。


加えて、当時”絶賛反抗期”だった妹の扱いが難しく、日々頭を悩ませた。


情が、縁があるからこそ、多感な時期を迎えていた俺や妹、それを見守る母親にとって、”別居”という形式が距離感を正しく保ってくれていた。



湿気の高さが鬱陶しく感じられた六月某日、その日はふたりが此方へやってきた。


毎月の決まった日ではない。


電車は使わずに自家用車で二時間かけてやってきた。


いつもと何もかもが違った理由は、俺が二人を呼び出したのだった。


『たまには遊びに来れば』と言うと、妹の笑里は土曜の部活動を休んでまでやってきた。