「上野くんの気持ちが知りたいの」


心の中にある扉をこじ開けようと、榛名は追い討ちを掛けた。


もう少しで開きそうなのだ、だから、どうか。



目の前のあまりにも必死な彼女に、上野はやっと破顔した。


参ったな、と頭を掻いて、それからまた真っ直ぐに榛名と向き合った。



「出来ることならまた一緒に走りたいって思ってるよ。俺個人としては。でも、」


言い掛けて、足の間で組んでいた拳を見つめる。


彼のそれにはまだ赤黒い痕がうっすらと残っていた。


痛々しくて、否が応にもあの日の事を思い起こさせてしまう。


「あいつに何かが起こったんだって、この前分かったんだ。だからそれを綺麗さっぱり片付けてからじゃないと、話にならないよ」



榛名は目を丸くした。


その眼差しを取り巻く雰囲気を掻き消すように、だってさ、と上野が口を開いた。


「あいつが久し振りに走ったのを見たとき、笑っちゃったんだ。ひざががくがく震えてたんだよ。だからもし会ったときはさ、北村さんから言ってやってよ」



そうして彼は立ち上がった。


続く答えを待っていると、席を直した背中が振り返る。



「"何びびってんだ、さっさとしないとお前が戻るとこなんて本当に無くなっちまうぞ"ってさ」



片眉を器用に上げた悪い顔がふはっ、と吹き出す。


榛名は、顔を綻ばせて頷いた。