やり場のない感情に戸惑う榛名の下で、いよいよ三浦が口を開いた。


「殴れよ」


榛名は耳を疑った。


自分の肩に力を預けて、よろめきながら彼は立ち上がる。


「心底腹が立ったろ、能天気に走った俺を見て」


三浦の足が一歩ずつ、上野に近づく。


「正義感あるもんな、上野は。後輩の代わりに俺に復讐してやりたいって思ったんだろ」


そうして彼は笑った、何とも似つかわしくない場面で。


「分かるよ、俺だって同じ立場だったら一発殴ってる。よく我慢したな、上野」



狂気じみた呟きに、いよいよ上野は後退りする。


頭の内で響く警鐘に急かされて、立ち上がった榛名はその手を伸ばす。



「分かるんだよ、上野。ちゃんと理由があるんだから」


「ーーおい、三浦、」


「だから殴れよ」


そうして榛名が伸ばした手は振りほどかれた。


いとも簡単に、そして一度も振り返らずに。



同時に虚を突かれた上野の腕を、三浦は空いた手で掴んだ。


「三浦、」


「殴って良いんだよ、俺を」