「勝手に泣いたんやったら、泣かせてやりゃあええよ」


言葉だけを聞けばいい加減なことだが、きっとそうではない。瑛人はその推測をすり合わせるかのように、口を開いた。



「言うつもりなかったのに。つい口から出ちまったんだ、”親父”のこと」


そしたら泣いたんだーー歩道橋での出来事を思い出した瑛人はがしがしと頭を掻く。



「ほら、やっぱりな。勝手に泣いたんやろ」


じいちゃんは、縁側のその向こうの、陽の光になびく草花たちを見つめていた。



「そういう泣かせ方なら、いくらでも泣かせたらええ。気にすることない」



その目には、何処か哀しい光が宿っていた。



ぶっきらぼうな口調は何故か優しい響きを持っている。


勿体無いと思う反面、それは彼の魅力でもあった。



おそらく推測は当たっているのだろう。


じいちゃんの真意はきっと、血の繋がった孫よりも”勝手に泣いた相手”の方に傾いている。


それが何故か嬉しくて、瑛人の口元には笑みが広がった。