外の陽気が良かったので、昼食には冷やしたぬき、それからたたき胡瓜を出した。


じいちゃんは『ええね』と呟いて顔を和らげる。蕎麦はじいちゃんの好物だった。


男二人が向かい合わせで、同じように胡座をかいて食事を共にする。


食べている最中の沈黙も今となっては安らげる時間だ。


適した季節を待ちわびた風鈴が、そよ風で揺れる。


目の前の人はもうすっかり箸を休めないので、静かにテレビの電源を消した。



「なあ、じいちゃん」


返事はしない。だが、耳を傾けているのが孫には分かっていた。



「ばあちゃんを泣かせたこと、ある?」


そこでようやく、ちらりと顔を上げた。


「女を、泣かせたんか」


平静を装ってつついていた箸を止める。じいちゃんの表情は驚くほどに優しかった。


「ばあちゃんは泣かんかったからなあ。何とも言えんけどなあ」


「そっか、」



それからじいちゃんは蕎麦を啜って、胡瓜も一口。麦茶で流し込んで呟いた。