この家には大人…いや、両親と呼ばれる者はいない。


私がいつも家事全般を行っている。


そうしないと、誰もやれる人がいないから。



朝ご飯の材料とともに、食器棚からお弁当箱を二つ取り出す。


一つは当然、私のものだ。


なら、もう一つは…



「おはよう」



背後から声がして振り向くと、そこには彼が立っていた。


長身の彼。


黒髪と黒い瞳がその白い肌によく映える。


寝起きだからか、いつもは掛けている眼鏡がそこにない。


そして、まだ、目が覚めきっていないのか、彼の体はふらついていて、見ていて危なっかしい。



「あっ、おはよう。ジン」



彼に軽く挨拶を返して、シンクに向き直る。


冷蔵庫から取り出しておいた卵をボウルに割り入れ、あらかじめ作っておいたダシ汁をそこに加えて。


塩、砂糖で味を調え、少し甘めの味付けにする。


家庭によって卵焼きの味つけや作り方は様々だが、私は出し巻き卵が好きだ。


それも甘い味付けのやつ。