揺らめく焔

マリアンネはシャルドネに触れようとしたが、シャルドネは拒んだ。
「——失礼します。」
そう言って去った。
今度は追わなかった。

政務室に入ると、リコリスが居た。
「あ!おかえりな……」
シャルドネの表情を見て、リコリスは言葉を止めてシャルドネの顔を覗き込む。
「もしかして……ご両親と、何かありましたか?」
「何故解る。」
「元帥任命式には多くの元帥が参加しますから。」
そう言いながら、椅子に座る。
「……いいや。」
(何を惑う。既に諦め切った話だ。)
ふぅと溜め息を吐いて首を振った。
ズキッ、と胸の底が痛む。
「少し、傷が痛んだのだろう。」
そう言うと、立ち上がり、水を汲んだ。
医師から処方された薬を飲む。
「そうなのですか?」
リコリスは納得がいかない顔だ。
「……そうでなない気がします。」
そう言って真っ直ぐ見る。
「深い、真っ暗なところにいるような目です。」
「関係ない。」
(触れるな。)
「どうして、貴方はそんなに苦しそうなのですか?」
「黙れ。」
(やめろ。)
「私にも、少しはその心を背負わせてください。」
そう言ってぎゅうと抱きしめる。
シャルドネはそれを突き放す。
「関係ないと言ったはずだ!!」
そう怒鳴る声にリコリスは驚く。
「……あ。」
冷静になって、決まりが悪い顔をした。
「済まなかった。気が荒れているな。気にするな。」
「——なくない。」
「?」
「関係なくない!!!!」
シャルドネに負けないくらいに声を張り上げて、リコリスは怒鳴る。
「ずっと、ずっと、傍に居て……こうしてお仕事してて、関係なくない!」
そう言って、怒ったように抱き付く。
「もっと、頼ってください。信じて。」
『もっと信じて。貴方を愛することを許してくださいませ。』
マリアンネの姿と重なって、シャルドネはもう一度突き放そうとして、やめた。
「私の情けない話を聞いて幻滅しても知らないぞ。」
「聞いてから考えます。」
リコリスはにこりと笑った。
「そうか。」
シャルドネは目を細めて、リコリスを撫でる。
「……私は、今まで愛情や必要とされることを諦めていた。」
その言葉にリコリスは何か言いたげにするが、シャルドネは視線で牽制する。
「それが、今になって愛され、必要とされている。おまけに、二度と利用しないなど言ってくる。」
僅かに震えるのが伝わる。