俺がアクアに話すのは、もっぱら学校のことだった。

アクアも通っていたことはあるらしいが、システムが全く違うので、アクアは興味津々に耳を傾けてくれる。


あまり、人魚という生き物自体について、尋ねたりすることはなかった。
知るべきじゃないこと、知らない方がいいこと、知る必要のないことが、たくさんあるような気がした。


その代わり、アクアについてはいろいろなことを尋ねた。
好きなもの、嫌いなこと、家族構成、趣味、できること、できないこと。
こうして考えてみると、アクアに浴びせる質問は、俺が転校して来た時に受けたものと大差ないと思った。



アクアはよく喋った。いつも楽しそうに喋った。
アクアに問いかけには、できるだけ丁寧に細かく答えた。

お互いの知っていることは全然違うから、結局わたしたちは2倍の知識を得られる。

アクアがそう言ってくれた時から、俺は丁寧な返事を心がけていた。


知識はまだ2倍にはならなかったけれど、そういう具体的なものよりも、感じ方とか世界観、物事の違った見方、違った価値観、そんな曖昧なものは、自分の中で格段に広がっていると思っている。



俺たちは自分をさらけ出して喋った。
自分のことを喋るのと同じように、相手について知らないことを尋ねた。無我夢中に相手を知ろうとした。好きってこういうことなのかな、なんて思ったりしていた。

恋愛感情をおいておくとして、嫌いな相手のことは、そんなに知ろうと思わない。
相手のことを知ろうと思うのは、好意の芽生え証と言える。



アクアと過ごす時間は特別だった。ひとに知られてはいけないせいもあるが、宝箱の中に隠したビー玉のような、秘密で大切なもの。特別なものだった。

ビー玉は誰にも見せちゃいけなかったし、誰にも見せたくなかった。

静かに眺めては、傷をつけないように、そっと柔らかい布でくるんでおきたいぐらいだった。