白くて大きな鳥たちが、遠くの海面上の一点に集まっていた。2、30羽はいる。エサを獲ろうとしているわけでもなさそうだ。

どことなく嬉しそうに鳴いて、長らしいやつが飛び去ると、群れのやつらもそれに続き、更に遠くの方へ、水平線の方角へと飛び去って行った。


鳥たちがみんないなくなったあと、同じ場所に、何かが残っていた。いや、誰かが。それはこっちを向いて、2本の手を大きく振っていた。


「――アクア!」


俺は立ち上がって思わず叫んだ。
うっ、と口を押さえる。あまりに大声だと、岬の上に人がいれば聞こえる恐れもなくはない。
幸い声はすぐに波にさらわれて、あまり響かなかった。


遠くてシルエットすらわからないが、あれはアクアだ。ちらりと尾ひれらしきものが海面に現れ、エメラルドの光が瞬いた。


アクアは潜った。1秒、2秒――俺は10m先ぐらいを見つめていた――6秒、7秒。
10秒、をカウントした時。


「翔瑚!」


声がしたのは後ろからだった。急いで洞くつに入る。アクアは例の穴から顔を出し、前髪に海水をしたたらせていた。
天気がいい今日、海面上に出て行くことを避けたらしい。


「久しぶり。って言っても、2日ぶりだけど」

「そうだね」


2日ぶりに見た笑顔は、やっぱり涼やかだった。海を感じる笑顔。そして2日ぶりの瞳はやっぱり澄んだ瑠璃色だったが、いつも通り、ということもないような気がした。

それは予感のようなものだった。あまり、いいものではなさそうな。予感が瑠璃色に、小さく影を見せた。