「もう」


朔乃が不満気にため息をつく。

ぷつっと音がして、テレビに映像が流れ始めた。


「――もう、夏なんだなあ……」


左の、肩の神経が、一瞬で張りつめた。

しみじみと呟いた慧の言葉が、俺にはとても重かった。

テレビには、夏の甲子園出場校を知らせるニュースが映っていた。


「去年もうちで見た」

「あー、そんな気がする」


慧と朔乃の言葉が遠のいてゆき、前の高校の広々としたグラウンドが、一気にフラッシュバックした。


汚れた白球を追うユニフォーム。
舞い上げる砂煙。
擦り切れたキャッチャーミットめがけて、指を離れたボールがストレートに……


「しょーご」


はっと、海に浮かぶ離島へ意識が帰って来た。


「アイス買って来よう。暑くて勉強もする気になんねーよな」


朔弥がにかっと笑って俺の腕をつかんでいた。


「またあ?」


朔乃が眉をひそめる。


「4人分買って来るからさ。ほら、しょーご、行くぞ」


朔弥は俺を引きずるようにして、炎天下の中へと連れ出した。