トラックがうちへ到着し、俺をおろして更に先の慧の家へ出発したと同時に、俺は納屋から自転車の鍵を取って岬へ向かった。



太陽は水平線よりすこしだけ上にあった。

小さな砂浜は夕陽に染まっている。


「アクア」


洞くつの口の隣に立って名前を呼ぶ。


「はーい!」


返事を聞いてから、洞くつへ入った。
アクアは寝転んで、例の碇を触っていた。


「外、出る?」

「うん。夕陽が見たいわ」


俺たちはいつもの岩に隣同士で腰掛けた。


「うわあ、ちょうどよかった!」


アクアは太陽を見てはしゃいだ。


「何が?」

「太陽が、沈む瞬間。もうあとほんのちょっと。わたし、この瞬間が一番好きなの」


アクアの熱心な視線の先で、太陽はゆっくりと高度を落としていった。

1分ぐらいした時、太陽の輪郭の一番下の部分が、ふっと海面に触れた。


「ほら! 溶けてるみたい」


太陽と接した部分の海面から、瞬くまに朱色が広がっていった。
覆い尽くすように、熱をもったその色はじわじわと海を走る。


「本当だ……沈むっていうか、海に溶けてるみたいだ」

「ね。本当は、溶けてるのかもね」


俺たちは笑って、少し海に指で触れた。
なんとなく暖かい。


広がる朱色を見て思い出し、俺はポケットから真珠を取り出した。


「見て、これ」

「これ……わあ、真珠だ!」


アクアは目を輝かせて受け取り、ハート形を夕陽にかざした。