船はしぶきを上げて海へ乗り出し、陸はどんどん遠くなっていく。

四方を海に囲まれた途端、自分がとてつもなく小さいものに思えてくるような、不思議な感覚が押し寄せた。


「別れる気、あったのか」


心底驚いたように朔弥は目を見開いた。


「……まあ、やっぱりな……」

「なんだ、翔瑚、優柔不断なだけか」

「慧も思ってたのか!?」

「そりゃ、この状態じゃ翔瑚も夏帆ちゃんも苦しむだけだし。翔瑚はさ、優しすぎて逆に相手を傷つけてる」

「優しさなんて、ねえよ……」


覚えずぶっきらぼうな口調になってしまった。


優しさなんてもんじゃない。
逃げてるだけなんだ、俺は。


……ここへ来る前から、ずっと。


「そうか……そうなのか……」


朔弥は白く泡立つ海面を見つめ、独り言を呟いている。

慧がふっと笑いを漏らした。


「あいつ、初恋もまだなんだって」

「へえー……」

「まあ、あんな朔乃と生まれた時から一緒だからな」


可愛いとか愛しいと思える子がなかなか現れないのもしょうがない、と慧は続けた。


「あんな朔乃」の「あんな」の本当に意味を知るには少し勇気が足りなくて、俺は黙り込んだ。


船は静かに海の上を滑って進む。

俺たち3人は、それぞれ別の方向を向いていた。