「他の道なんてなかった。中学時代も、俺はずっと野球一筋だったし。日常への支障はなかったけど、肩、恨んだよ」


アクアはまっすぐな視線を向け、熱心に耳を傾けてくれていた。

気づけば太陽はかなり西へ沈んでいる。

遠く鳴くカモメたちは巣へ帰っていくところだろうか。


「……でもね」


やがてアクアは口元に優しい笑みを浮かべ口を開いた。


「しょうごはしょうごだよ。どこにいても、何をしてても。しょうごだよね」


アクアは、今朝のとはまた違った歌を口ずさみ始めた。
スローペースで歌は歩いて、小さな砂浜中に広がった。

今は2人だけの空間が、優しくて暖かい空気に満たされる。


泣くかと思った。そのぐらい、アクアの言葉は衝撃と言えば衝撃だった。

どうしてこんな当たり前で、生まれる前から知っているはずのことに、ひとは気づけないんだろう。

どうしてアクアはそれをたやすく言葉にできてしまうのだろう。


今目の前にいるのが、アクア以外の何者でもなくて本当によかったと思った。



歌を紡いでいた声がふっと途切れ、小さく優しい笑い声をたてた。

さざ波と同調した笑い声は、いつまでも耳に残って体中に響いていた。