気づくと、朔弥は友達を見つけたらしく後ろの方を歩いて話し込んでいた。

そのままで足を進めようとした時、カッターシャツの裾がつんと引っ張られた。
朔乃の手だ。

潤んだ黒い瞳は俺を凝視していた。


「……ねぇ」

「ん?」


足を止め、問い返した。


朔乃は当然ながら同い年だが、なんとなく年下のように扱ってしまう。

朔乃は頭もよくて結構しっかりしていて、見下しているわけでは絶対にない。

しかし俺に限らず大抵のやつは、庇護欲をかきたてられてしまうらしい。

恐らくそれも朔乃の人気の原因のひとつなのだろう。


「……名前」

「な、名前? なんの……」


アクアの名前を思い浮かべたばかりだったため、過剰な反応をしてしまった。


「焦ってる」


朔乃の頬がぴくりと動いた。


「べ、別に……」

「黙っててあげるね」


朔乃は小さく笑みを浮かべ、手を離し、小股で朔弥の方へ近づいていった。