目を覚ましては灰色の天井と潮騒を確かめ、いつもの朝にほっとする。


潮騒は日常の一部となっている。
穏やかな時、荒々しく激しい時。
どんな波の表情も、俺は嫌いだ思ったことがない。


息をついてひたいに手をあてた。


――また、あの日の夢を見た。


左手が汗ばんでいた。
夏とはいえ、朝の海辺は暑いと言い難い気温であるにも関わらず。

その手はいつも言葉にできない思いを握り締めている。




今年の春、ばあちゃんの家に来た。

年中温暖な離島。
潮風は小さな町々を颯爽と吹きぬけ、海の香りを残していく。
のどかな風土に惹かれ、移住してくる者たちも多い。
離島にしては賑わっている方だそうだ。


この島には大きなスーパーやコンビニというものが存在しない。
最初の頃は不便にも思った。
しかしここへ来て1週間も経てば、そんな考えはどこかに吹き飛ぶ。
そんなものを求める方が馬鹿らしく思えてくるのだ。


ばあちゃんを始め島民たちは口を揃えてこう言う。

都会の人間は何をそんなに急いでいるのか、と。


都会と同じように流れているとは思えない「時」の感覚。
もしかしたらそれがこの島一番の魅力であったりするのかもしれない。