そっと引き戸を引くと、昨日と同じく台所に立っているばあちゃんが目に入った。

水色のサンダルを脱いで、茶色のを隅に置いた時、ばあちゃんは振り向いた。


「おはよう。なんねえ、散歩、えらい早うから行ってたんやね」

「うん、目、覚めてから眠れなくて」


疑う余地のない嘘のはずだった。が、ばあちゃんは少しの間黙って俺を見つめていた。

疑いの眼差し、というわけでもないが、その強さはドラマの中で容疑者に自白を促す刑事のものを想像させた。

目の下で、刻み込まれたように深いしわがぴくりと動く。


「……そうか。ほんなら翔瑚、庭からナンキンとってきて」


くるりと流しに向き直ったばあちゃんの声には抑揚がなかった。


「わかった」


再びサンダルを履いて庭の方へまわった。




庭と言うにはあまりにも似つかわしくない広さで、赤っぽい土の広がるそこは、確かにばあちゃんの家の庭なのだ。
畑と言った方がしっくりくるのだけれど。

ところ狭しと並んだ夏野菜の中からナンキンを見つけ、畝を歩いて息をついた。

その時初めて、鼓動の速さが尋常じゃないことに気がついた。


昨日の様子といい何なんだろう。

あの、ばあちゃんの、何かを言いたげな強い眼差しと、ひとが何か隠し事を持っている時に見られる、歯切れの悪さ。

ばあちゃんが隠し事というのは考え難いことだったが、他に思いつくものもなかった。

言いたいことがあるとすれば、それをためらうのはなぜなのだろう。


頭の中で、その質問と答えは堂々巡りを続けるばかりだった。