「アクアって呼んで」

「うん。俺は、そのまんまでいいよ」

「しょうご、ね」

「じゃあ、それで決定」


俺たちは顔を見合わせて微笑んだ。


「それじゃあ……って言っても、何から聞いたらいいのか……」


聞きたいことは山ほどある。質問を全て並べ立てていれば、日が暮れてしまいそうだ。


「えっと、じゃ、年は?」

「わたしは16歳。人魚はね、15の誕生日に初めて海の上へ上がれるの」


そんな話なら、聞いたことがある。童話というのは案外事実が多いのかもしれない。
アンデルセンも、人魚に命を救われたのだろうか。


「じゃあ、人間になれたりは?」

「それはできないの。おばあ様が話して下さったわ。『人魚姫』は声と引き換えに、2本の足を手に入れるのよね」

「そう、それで王子様に会いに行くけど、結局王子は他の国の姫と婚約して」

「人魚の姉たちは自分の髪と引き換えに魔女からナイフをもらって、それで王子の命を奪うよう、最愛の妹たちに聞かせる。

だけど人魚は王子を愛していたから、そんなことはできなくて、海の泡になるのよね」


アクアは躊躇なく、しかし寂しそうな表情で哀しい物語の終極を語った。


「素敵ね。実話ではないと思うけど、もしかしたら……。人間は、すごいわ。……なのに」


アクアの顔に、影が落ちた。


「人間は、海を汚すわ」