「え……サンダル?」

「そう! それの、水色の方」


彼女は派手な音を立てず、指先から滑り込むように海の中へ潜った。


サンダル、がどうしたのだろう。

わけがわからず立ち上がる。不安に駆られたが、すぐにうろこがちらりと光ったのが見つかった。

さすが、というか、普通ならたった数秒であそこまで行くのは不可能だ。


しばらくすると彼女は俺が昨日落ちた崖の下辺りで、海面から顔を出した。

潜ったり、鼻から上だけを出したりを繰り返していた。


それから少し長く潜っていたと思ったら、彼女のシルエットはもうすぐそこにまで近づいて来ていた。

さきほどまでいた辺りで顔を出した時、彼女は満面の笑みを湛えていた。


「これ! サンダル、あったよ!」


彼女が差し出した両手の上に、水色のサンダルの片割れが乗っていた。


「これ、捜してたのか」

「うん。どこいっちゃったのかなーと思って……」


へへ、と彼女は屈託なく笑った。


「ありがとう。ほんとに、ありがとな」


サンダルを受け取り、茶色の方と交換して履いた。

再び逢うことのないと思っていた相方と再会できたサンダルたちは、しぶきをきらりと光らせ、喜んでいるかのようだった。