ここで涙を流しても何にもならない。
息を吸って顔を上げ、景色を眺めることに専念した。


建設中の高速道路。
青天に黒い煙を吐き出す工場。
補色の看板たち。

窓にはそんな景色ばかりが映っては後方に流れていった。
見慣れたはずの景色たち。
なぜだか酷く汚れたように思えた。


変わり映えのしない景色は続き、いつしか眠りにおちていた。
ふっと目を覚ます。
目に映ったのは、正方形に整地された田園だった。

四方に伸びていく畦道。
この国を支えてきたものを作り出すその地。
田舎の象徴のような景色。

そんなものが列車一本で行ける場所に。
都会育ちの俺は、小さな感動を覚えていた。


列車を乗り継ぎ、海道を渡る。
家から離れるにつれてそんな景色は増えていく。



そして最後の車窓からの景色。
向かう島の唯一の観光名所とも言えるもの。
大きく揺れる列車が踏み切りを超えて橋にさしかかった時、目の前が突然青色に染まった。