潮風にあおられた亜麻色の髪の一筋一筋が、俺たちの頬や首を撫でる。

腕の力を緩めると、アクアは手の甲で涙を拭った。涙の粒が彼女のうろこの上に落ちると、それは不思議な色をして光った。


「ごめんなさい」


謝ることなんてないのに、と思って、それを口に出そうとした時、アクアがまたさっきとは少し違う表情をしていることに気づいた。


「アクア?」

「ごめんなさい……!」


大丈夫か、と問う間も与えず、続けざまに彼女は謝った。

泣きじゃくりながら辛そうに謝るアクアを見ていると、ひどく胸騒ぎがした。


「落ち着いて。どうした? なんでそんなに謝っ……」

「翔瑚に、言ってなかったことがある」


胸騒ぎは止まり、そこからほころびのように暗い穴が開き初め、不安が波紋のように広がっていく。

聞かなきゃいけないことは明らかなのに、続きを促すことが怖くてできない。


「初めはこんなつもりじゃなかった。真珠探しを手伝ってもらうためだけに、慎重に人間を選んで……。
なのに、ね。翔瑚、わたしは翔瑚のこと。人間のこと、好きになっちゃった。
陸の世界のことも。知らないことばかりなのに、いつの間にか、好きに。
だけどわたしは」


言葉を詰まらせ、アクアはうろこを撫でた。


「足がなくって、海の中でしか生きられない、いきもの。違う世界。

わたしのような例は珍しいことではないと先人たちはわかっているみたい。
わたしたちの世界の者が、人間に会うことは本当は禁じられているの。

今回真珠捜索の件で、わたしたちは一時的にということで接触は認められていたけれど。

でも、最終的には……関わった人間から、自分たちについての記憶を消すことが義務付けられているの」


その時、一番最初に思ったことは、「恐れていたことが起こってしまった」ということだった。
恐れていたことに気づいたのもその時で、でも、それによって変わることも変えられることも何もなかった。


返事はできなかった。

アクアがまた、涙をあふれさせていたけれど、手を伸ばすこともできなかった。