それは、初めて聞く自分の祖父の話だった。

古ぼけた写真にいた、日にやけた顔。とても優しそうで、若い時彼はかっこよかった。

それと、海の国王ティート・シェルライン。あざやかすぎるうつくしい生き物。

じいちゃんが感じた”加護の力”は、気のせいではないのだろうと思った。気のせいでなければいいと思った。


「それじゃあきっと、ばあちゃんも護られてる」

「かもしれへんなあ」


それから、その孫も。

潮風に誘われ、海に落ちたあの日。助けられたことだけではなく、海におち、彼女と出会うことになったその現実も。

もしかしたら、海へ還って行った青い目の男の意思があってこそ、起こり得たことだったのかもしれない。


「今度は、わたしが聞いてもええか」


ばあちゃんは真珠の箱にふたをし、俺に向き直って言った。

つばをのみこみ無言でうなずく。


「真珠のことを尋ねたんは、どうしてや?」


答えたくはなかった。2人の守った、うつくしい思い出に反することだと思った。

だけどばあちゃんには知る権利があるし、何にも気付かず、そのきっかけを作ってしまった俺には話す義務がある。


「シェルライン家が治めていた国の玉座には今、初の女王が就いている。
……シェルライン家の出ではない、女王が。

そして、どこから情報をつかんだのか、フルフィルパール……7つ真珠を、探しているらしいんだ。
永遠の美貌でも手に入れようと思っているんじゃないかって噂だそうだけど」


シェルライン家が、玉座を追われた。
それは、ばあちゃんにとって何でもないことであるはずがなかった。