「……7つ目の真珠に、決して触れてはいけない。真珠は陸の上でも生きていて、触れたものの意志を、それが強ければ強いほど、汲み取ってしまう。決して、触れてはいけない。

彼は頼み込むようにそう言って、わたしにこれを渡した。わたしは黙って頷いた。

そして彼は…………お礼と、謝罪の2言3言を残して……行って、しまった。


それから先は、何にも知らん。
わたしには、海の底に広がる世界について何ひとつ知る方法はなかった。

それまでにわたしが生きてきた十数年と同じ、陸の世界の生活が、再び始まっただけやった」


話し終えると、ばあちゃんは息を長く吐き出して、肩を下げた。力が抜けたように腰を少しだけ曲げて、背中を丸める。
ほとんど変わらないはずなのに、とても小さくなったように見えた。


「これがわたしの昔話や。それから、あんたが聞いた、7つ真珠の首飾りの在処のこたえ。
何か、聞きたいことはあるか?」

「じいちゃんとは?」


気になっていたことなので、思い切って尋ねる。


「あの人と出会うたんは、そのことがあってから間もない時やった。

長じいを通して知り合うて……その頃まだまだわたしは、彼のことを引きずっていた。
けれど、海に心を持っていかれてしまって、空っぽになったわたしを、あの人は優しく受け入れてくれたんや。

彼のことをあの人に言うわけにはいかんかったから、罪悪感もあった。
優しい彼を自分は、欺いているような気がしたものや。


悩みに悩んだけどなあ。親のすすめもあって、わたしはあの人との結婚を決めた。

不思議なことにな……わたしと結婚してから、あの人の養殖する真珠は、それまでとは比べ物にならんぐらい良質になったということや。

船で海へ出て、危ない目に遭うたことも何度かあったが、そのたびに幸運なことが起こって助かったんやという。
結局あの人は、倫子が生まれてすぐ、病気で逝ってしもうたんやけどな。


自分でも言ってはったわ、どうやら自分は、海の神の加護を受けてるようや、と。

わたしはその意見に賛成やった。……神も人魚も、会われへんことにかわりはないんやからな、どっちも同じようなものや」