野菜たちを冷蔵庫やおすそわけ用の袋に小分けし終わると、ばあちゃんは俺に縁側にいるように言った。


玄関の門扉や離れとの間にある中庭に面した、広い縁側に腰をおろす。

この建物の中で、一番潮騒が聞こえる場所だ。目を閉じて海の音を聞き、心を落ち着ける。はだしになって、貝殻の混じった砂利の感触を確かめる。

家の中でここまで海を近く感じたのは、初めてのような気がした。


目を開くと、ばあちゃんがおぼんを持って、畳の間から縁側に来ていた。
おぼんには瑞々しいスイカと、お客さんが来た時に出すカルピスが乗っていた。


「昼ごはんがまだやけど、まあ、たまにはええやろ」


ばあちゃんはよっこらしょ、という感じで縁側に座り込み、普段ならあまり自分では飲まないカルピスに口をつけた。


「……なんや、甘いなあ」

「そりゃそうだよ」

「倫子が昔、初恋の味やなんや言ってたけど、こら甘すぎるわ」


ばあちゃんは目を細め、苦笑気味に言った。

同じくコップを手にとり、スイカの皿を膝にのせる。カルピスはよく冷えていた。


「どこから言うたらええもんかねえ……」


目が、遠い所を見つめ始める。


「初めて、会った日」

「……そうやねえ」


同じ島と同じ海。
同じ生き物。同じ血。

時間だけが当時に遡る。


「わたしが、ほとんど翔瑚と同じ歳の時分やなあ。時代で言えば戦後や。言うてもこの島はほとんど関わってなかったけどな。貧乏にはかわりあらへんけれども。

わたしはこの家に、父親と母親と、妹2人と住んどった。ある日、台風が島に上陸したんや。海は大荒れに荒れた。私ら家族も、家が吹きとんでいかんか心配しながら、荒れ狂う灰色の海を眺めとったわ。

翌朝、嵐は止んどった。その日のわたしは、何の理由もないのにえらい早くに目が覚めたんや。海の荒れ具合が気になったもんで、わたしはそのまま散歩に出た」