「わたしはすぐに返事ができた。いると思うか――思うどころか、わたしはその生き物と、会って、話を交わしたことがあったんやから」


少女の気配が、色濃く浮き出て、歩き出す。

少女は道の生き物と遭遇する。未知の世界に惹かれ、その住人にも惹かれ。

繰り返される。
未知は未知のまま。何十年の時を経て。


「今では翔瑚も、同じやな、このうつくしい海には、陸の者を惹き付ける、うつくしい生き物たちが住んでることを知っている」


やっと、手足の間隔が元に戻って来た。
何か言おうと思うが、言うべき言葉は見つからない。ばあちゃんはきっともう、何もかもをわかっているのだ。

しばしの沈黙の後、ばあちゃんは俺の気持ちを察したように言った。


「わかってるで。もう隠さんでもいい。不思議なもんやなあ…………翔瑚の会うたんは、女の人魚やったか?」

「うん」

「そうか」


たった一言、言葉を発せたことによって、少し気分が落ち着いてきた。

ばあちゃんは、あの遠い目をしていた。
今度は俺にも、その澄んだ瞳が見つめている先にあるものがわかった。