父さんが家を早めに出てくれたおかげで、予定より1本早い列車に乗れた。

乗り継ぎ乗り継ぎ、島へ近づく。
行きとは反対に景色が流れて行った。コンクリート、田、田、山、田、山、海、田、海、山、海、海。

乗り換えがうまく行ったおかげで、島に到着したのは予定よりも1時間も早い時刻だった。

荷物を背負い、バス停へ向かう。1時間に2本のバスだが、運よく10分後に、うちの方向へ向かうバスが来た。


最寄りのバス停から、家までは徒歩で大体25分。のんびり、景色を眺めながら歩く。
街より、空が澄んでいて高かった。鳥がたくさん飛んでいた。吹く風は緩やかなのに、心地いい。眺めが良くって、景色が横長だ。


海沿いの道へ来ると、懐かしい青と白のコントラストに思わず立ち止まった。

風の匂い、感触、テトラポット。入り江には漁船が止まっていた。体の内側からわき上がるむずむずとした何かを感じ、叫びたい気持ちになったが、波止場で見知らぬ漁師さんたちが網の修理をしていたのでやめた。



30分ぐらいで、家に着いた。見慣れた瓦葺き屋根の家屋。
錆びついた門を、きいと鳴らして踏み入れる。玄関が網戸になっていなくて、閉まっていた。

一応どんどんと叩いてみるが、応答はない。
千歳さんもいないということは……2人で、裏山の畑へでも行ったんだろう。到着時刻が予定よりも随分早かったからしょうがない。

よっこらしょ、と荷物をおろし、納戸にかけてある裏口の鍵を取りに行った。
裏口から家に入る。裏口を使ったのは久しぶりだ。


荷物を居間の机にどんと置いて、ふすまを全開にしてひとつづきになった広い、広い、たたみの上にごろりと寝転がる。

風が通っていなかったので、少し蒸していた。息をすると、濃いイグサの匂いを胸いっぱいに吸い込むことになった。
その匂いは、仏壇を思い出すのであまり好きじゃなかった。なのに、気づけば、かぐと安心する匂いになっていたらしかった。