「……怖かった?」

「一緒に生きていくことは、難しいから……だけど」


アクアを悲しませたかったわけじゃない。
誤解も避けたかったので、すぐに付け足した。


「そんなことは、考えてもしょうがないな、と思った。すごく勝手だけど。だって、だからこそ出会ったんだし。出会ったことを後悔するとか、そういうのは絶対嫌なんだ」


アクアはものすごく納得したような感じで笑った。


「わたしも、そう思う」


出会った場所で、出会ったことを喜べる。
それは奇跡的に幸せなことだった。


夏が始まろうとしていたあの日、アクアと俺は海の中で出会った。

この先、何日一緒にいられるかわからない。
明日会えなくなるかもしれない。
それでも、確かに今は、隣に座って、同じ音、風、香り、景色を共有している。

一瞬一瞬を大事にしようと思える。


「この前は、はずみで言ったけれど」


アクアは言った。


「本当に思うわ。この島から、離れたくないなあ……戻る国は、1人の権力ののさばる、恐ろしいところになろうとしているし。翔瑚は確か、ここで生まれたんじゃないのよね?」

「うん。生まれたのは、海を隔てた島の上だ。もっとたくさん人がいて、空気が重たいところ。そろそろ、里帰りするんだ」

「そうなんだ。国に帰りたいとは思えないけれど、家族には会いたいな」


期待された野球の道を失った俺は、逃げるようにここへ来た。
あの日から俺は、家族みんなに気をつかわせてしまっていたと思う。
耐えられず、こんな選択をした俺を、どう思っているだろう。

考えてみれば、しっかり向き合った覚えはない。
あの頃の俺は、家族の支えがあってのものだっただけに、勝手に裏切り者の気分に陥っていた。顔向けできないと思っていた。


そんな家族と向き合うこと。
今ならできない気はしない。

アクアに伝えたように、正直に率直に自分の気持ちを。

自分が大切に思う人になら、それで伝わらないわけはないと思った。