「わたしも、好き。同じ意味で、よ」


それは、とても簡単な行為だった。単純な行為だった。身一つあればできることだった。

同じ思いを持っていることを確認し合う。
それだけで、安心や喜びなんかを、はかりしれないほど得ることができる。

荒んだ都会の心にも、そういうことは必要なんじゃないかと思った。


そして、今の俺たちにできることは、これだけだった。
伝え合う。さっきの自分が伝えることしかできなかったのと同じ。

やっぱりこれは、確認だった。
だって、もう、いつもとなんら、変わりはない。


もし相手が違ったら、この時点で2人はつきあうということになっていて、お互いがギクシャクし始める。

でも、アクアとの間でそれはない。
そして相手はアクアでしかないのだ。

いつもとなんら、変わりはない。


「聞いてもいい?」

「ん?」


アクアはちょっとだけ、控え目な感じで言った。


「この前、わたしが言おうとした時は、翔瑚、言わせてくれなかったでしょ? なのに今日は、翔瑚から言ってくれた。なにか、あったの?」


この前、をすぐには理解できなかった。
少し考えて、それはアクアが真珠のことで取り乱して、泣いてしまった時のことだとわかった。


――わたし、それに、この島から離れたくもない。本当は。翔瑚、わたし


そこで俺は確かに、言葉を遮った。
具体的にではなくとも、その先にどんな内容が続くのかはわかっていた。
わかっていたけど、遮った。


あの時はわからなかったし、あまり深く考えもしなかったが、たぶんどこかで夏帆に遠慮していた。

それだけじゃない。俺は、たぶん――


「怖かったのかもしれない」


ぽつりと言うと、アクアが少し身構えたのがわかった。