あの出来事があってから、俺は悶々とした

日日を過ごしている…。


俺は何のために強くなろうとしたのか。

カッコイイ不良って一体何なのか分からな

くなってしまった。


今日も奴はいじめられている。

だが、今までの奴を見る目が俺の中で変

わってしまった。


(あいつ…いじめられてんのに、なんで平

気でいられんだ…)



奴はあの時も自分は間違ってないと、高校

生に歯向かっていった。



それに比べて、俺は…


「拓也ぁー。」


そこへリーダーの武がやって来た。


「行こうぜ。」

「ん、あぁ。」


相変わらずいじめられている奴を尻目

に、また不良共とつるむ。




全く前みたいな充実感が湧かない。

寝ても覚めても、奴の事と自分の愚かさに

頭がどうにかなりそうだ。



そうだ、こんな時は練習で忘れてしまお

う!

俺は、いつもよりちょっと早めにボクシン

グジムへと向かった。







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今日もハードだった。

渇ききった喉に缶ジュースを一気に2本流

し込む。



「あーっ!! 疲れたっ。

今日は鈴木、来なかったな!? 」


「あー、そうだな… また、なんかやらか

してんだろ。アイツの事だからな。」


「へー、伊豆島は練習してていいのか

よ?」


「俺は、ケンカとかしたことないから

さ…」



「顔に似合わず…かっ。」



笑いながら喋っているのは、ボクシングジ

ムで知り合った同じ中2の佐藤。


俺とは他校だが、気が合って練習は大体一

緒にやるようにしている。



伊豆島 (いずしま)は体格はガッチリしてい

るが、身長は俺より低くどうやらビビりら

しい。

(解: お前も…なっ)



今日はいないが鈴木と言うのは、伊豆島と

同じ学校で体格は細身だが身長は高く、ケ

ンカっ早い。


なかなか強いんだが、最近不良行動が忙し

いのか練習に顔を見せなくなった。




今日の練習内容など話ながら、チャリで途

中まで一緒に帰る。





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「今日も着くの11時過ぎるなぁー…」

伊豆島は俺より遠くからジムまで来てい

る。


辺りはすっかり暗くなってしまい、街灯が

手入れされた木々の間から2、3個着いてい

るだけだ。


俺達は暗い土手沿いをノロノロと走り続け

ると、その内横断歩道の信号で止まった。


そこには高校生らしき二人組が、同じく

チャリに乗って信号待ちをしている。


一人はデカくて、ガタイがいい角刈り。


もう一人は身長が低くく、ポッチャリ体型

でロン毛なやつだ。



ふとその二人組のデカイ方がこちらを見て

動きを止める。

いゃ、正確には隣を見ている。





俺は隣にいる伊豆島の顔を恐る恐る見や

る。


(…ェ"ーーっ!!

ガン飛ばしてますゃーんっ!!

さっきケンカした事ないって言ってませ

んでしたか、いずしまちゃーんっっ!!)





デカイ方の高校生は自転車を降り、こちら

へ歩み寄ってくる。


「ケンカ売っとんのかっ!?」

「あぁ。」



あぁ。ぢゃねーよっお前っ!! 初ケンカだ

ろーがっ!!

なんで、そんな慣れてんのよー!!


あー、ヤバい、ヤバい。

また高校生かよっ。

(どんだけ年上キラーなんだょ、俺は。とか

は思っていない)





…ん? 伊豆島君、いずしまくん、

高校生もう1人余ってますよー。


おい、これは…



ま、さ、か……の!!





2対2のにらみ合いが続く……


デカイ方は遂にしびれを切らし伊豆島に近

づいた。



「おぃ、こっち来いよ。」


どうやら土手下の草と木が生い茂る所で始

めるつもりのようだ。


伊豆島は首根っこを掴まれながら、林の奥

へ連れていかれた。




暗いので何が起こっているかわからない

が、俺ともう1人のポッチャリ高校生は数

少ない街灯の下、取り残された。




「ははっ、うちのケンカっ早いからな。」


「は、はは…すんません、あいつが…」




暫しの沈黙が流れる……



(どうするんだ…こっちもやるべきか…

しかし、なんかいい人そうだなぁ…)






そんな風に微妙な距離感で躊躇していた

ら、先程のデカイ方が1人で戻ってきた。



「おぅっ!! お前もやんのかよっ!!」



相当ご立腹で、興奮冷めやらぬと言った様

子だ。

(ひぇーっ!! 勘弁してくれー!)



「い、いや、アイツがすいませんでし

た。」


「そうか。 あっちに転がってから、拾って

やれ。」


そう言うと、呆気なく二人の高校生は帰っ

ていった。





そこへ、よたよたと顔を押さえながら歩い

てくる友人。

(いや、俺はどの面下げて友人と言えるの

だろうか…)



「へへっ、負けちった…。」


伊豆島はおどけた様子でそう言った。




「お前、ケンカしたことないんだろ…」

(まぁ、実質俺もだが…)


「一回してみたかったんだよなっ」




あそこの高校はやくざを輩出するって言う

ぞ、などと俺は自分がケンカをしなかった

理由を必死で作り、こいつに謝りもしな

かった。




伊豆島はそれを聞いてマジかよー、ヤベー

なとか言ってはいるが、顔はスッキリして

いた。





そして、急にどこかで聞いた事のあるよう

な言葉を俺に言ってきた。







「お前なら、絶対勝ってたなぁ。」
















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あれから…伊豆島とは何度かジムで一緒に

なったが、その内2人も練習に来なくなっ

た。



風の噂ではどこかの船を爆破した不良グ

ループに二人がいて、捕まったとか。



アイツは…伊豆島は、あの時に一皮剥けて

不良グループに入れたのかもしれない。






俺はというと……





悔しくて、自分が大嫌いになった。



何度も、何度も、唇を咬みちぎるようにし

て、涙をこらえた。




そうでもしなきゃ…

自分を許せなかったから。










……俺は不良をやめた。