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俺達は男二人で出店などを回った。


花火の打ち上げも一旦収まり、歩行者天国

は朝の満員電車並だ。





「はぁ…可愛かったなぁ。」


先程の美少女にもう一度会えたら…などと

考えながらつい、妄想を膨らます。



「うん、そうだね。 でもまた会えるって

言ってたし、ナンパ成功だねっ。」



「ばかっ!! かもだよ、かも。

全く、男二人で夏祭りなんて…」




「まぁまぁ、せっかくだしさっ。

そうそう、くじ引きしたいんだよ!!

あそこのくじ引きの二等 !! 絶対あれほしい

んだっ……。」



お前は楽しそうだなぁ…と言おうと思った

所で、タケの言葉が遮られる。



「あれぇー!? 」「あれれー!?」


「篠崎チャンじゃないかー?」




く、嫌な所に…


いつぞや、自販でタカってきたアホ先輩共にこんな所で会うとはツイてない。



「ど、どうも…。」



とりあえず挨拶をしておく。




「なんだよ、そっちのキモいのは。

篠崎チャン、オタクになっちゃったのー!?」





いきなり嫌味炸裂だ。


本当ぶっ飛ばしてやりたい。



俺はもう、前の俺とは違うんだぞ。


(…と言いたいが相手は先輩3人、こっちは

オタクが1人。

ダメだ、今回は止めておこう)



そう自分を納得させた。



のに…。


タケの悪いクセが出てしまった!!



「僕はっ、オタクですけど!!

拓也君は、カッコイイ不良ですっ。」



(おいっ!! おい、おいおいおい…

何やってんだよー、ばかっ。


お前頭おかしいんか!! 前から思ってた

が、こいつ本当にいじめられっ子かね…)





見た目から予想もつかないタケの発言に先

輩方は一瞬でキレた。



「あーっっ!? テメー、なんつった!?」

「おぃおぃ、世間知らずのガキんちょに礼

儀ってもんを教えてやんねーとな。」


「おぃ、お小遣いもらってくぞー!!」



笑ってるんだか怒ってるんだかわからない

が、3人の先輩方はタケに掴みかかる。




「止めてくださいっ!!」


「うっせーんだょ、くそオタクが!! 」



3人でタケを小突いて財布を奪おうとして

いるがタケも抵抗を止めない。



俺も立ちすくんで、声が出せない。

(くそ、またか…情けない。)




と、その時タケの振り回した手が1人の先

輩の目に当たった。



「…って! ……てめーつっ!! 」



先輩方はそれに逆ギレして、今度は本気で

タケを殴った。




タケは地面に転がり、3人の先輩のサンド

バックと化した。




「……ぉい。」


思わず出した俺の声はあまりに低く、誰に

も届かない。




俺はもう一度、最早ヤケクソになって叫ん

だ。



「っおいっっ!!

聞いてんのかょ、このヘタレ雑魚共っ!!

てめーらは1人じゃなんも出来ねーなっ!!」




「あー!?」「…んだとっ!!」



ついとんでもない事を口走ってしまった。

だが今、俺の脳内はアドレナリンかノルア

ドレナリンが支配している。


先輩方が一斉にこちらへ殺気を向けるが俺

は止まらない。


「1人じゃなんも出来ねー、ビビりっつっ

たんだよっ!!」




「てめー、最近調子に乗りすぎだな…。」




1人が俺の方へ来ると、残りの二人も肩を

怒らせこちらへ向かって来た。



「殺すぞ…。」



そう言い、恐ろしい顔を近づける。


俺は震える足を叩きつけ、恐怖を押さえ付

けるよう叫んだ。



「っらぁーっ!! やってみろぉっっ!!」




俺に顔を近づけていた先輩がその一言に怒

りを露にした。


鬼の形相で俺に殴りかかる。


「ぶっ殺すっ!!」



俺はつい反射的にその先輩のパンチの軌道

を左手で反らし、右のボディーブローをね

じ込んだ。



殴りかかってきた先輩はその一撃で地面へ

沈んだ。

(反復練習って、ちゃんと出るもんだな…)



日々の練習成果に浸りながら、残りの先輩

二人を見据える。



「て、てめーわぁ!!」


その内の1人がまた殴りかかってくる。


だが、あまりに遅いその動作にどうやって

倒そうかと考えてしまった。



せっかくなのでと、滅多に成功しない右の

カウンターパンチを全力でお見舞いしてや

ると、先輩は背中から倒れ顔から血を流し

て昏倒した。




「ひぁー!? す、すいませんでしたぁ!!」



それを見て、1人残った先輩はひたすら謝

り土下座する。


俺はそれを横目にタケに駆け寄った。


「おいっ!! タケっ。 大丈夫かよっ!?」

「あ、拓也…君。 へへ、だ、大丈夫。

慣れてるからね… げほっ。」



鼻血を出しながら、顔面血まみれのタケは

笑いながら俺の肩を借りて立ち上がった。




「おいっ!! とっとと逃げるぞ!!」

「う、うん。」


そう言って俺達は近くのデパートに入り、

屋上へ逃げ込んだ。



そこでようやく一息つくと、安心からか足

と手に力が入らない。


今更ながら恐怖で震えが来た。



「ふふふ…」


それを見たタケが笑いを堪えている。




「おいっ!! お前何笑ってんだよっ。」



「だって、拓也君不良だし、強いのに…

ぷくくっ…」



「てめー!! 誰のせいだと… ぷっ!!」


ついこっちまで貰い笑いをしちまった。




「ぶっっ!! ぶぁははははっ!」
「あはっ!! あははははっ!!」




俺達は安心からかなんだか笑いが止まらな

かった。

腹筋が限界を迎えても、笑いは止まらな

かった。






ひとしきり笑い合った後、疲れた俺は屋上の冷たいコンクリートに倒れこんだ。



空にはうっすらと星空が見えている。




「なぁ… 俺、カッコよくなれたかな…?」




もう会うことのなくなったいつかの友人を

思い浮かべ、俺は呟いた。



「拓也君は… カッコイイよ。」



タケに聞いたわけではなかったが、そう答

えを貰った俺は、自分が少し成長出来たよ

うに思えた。



「…あっー!! 」


タケが唐突に叫ぶ。




「あ!? 今度はなんだょ!! 」



「…くじ引き…。」



タケはあんな事があった後なのに、相変わ

らずプラモを諦められないらしい。


(とんでもない精神だな、こいつは…)






「お前は……オタクだな…。」


そうタケに言ってやる。




「拓也君は… 不良だねっ。」




全く、とんでもない組み合わせもあるもん

だなと二人でまた笑い合った。




すっかり星が見えるようになった夜空には

津川大夏祭り最後の花火が舞い上がってい

た。