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改めてまして、佐野 則武(さの のりたけ)で

す。



僕は部屋でオンラインゲームをしたり、本

を読んだり、プラモを弄っている時が一番

幸せです。




ずっと家でそうしていたい…けど母さんが

心配してしまうので、仕方なく学校へ行き

ます。




学校に行けば、みんなにいじめられる。


僕が眼鏡で髪形も天然パーマだから、オタ

クオタクって言って殴ったり、蹴ったりす

る。



僕は黙ってそれを受ける。

だって、ただそれだけだから。



でも、どうしても許せないことがあった。





母さんが誕生日に買ってくれた時計。



ずっと欲しかった時計で、もうずっとね

だってたやつ。


母はいつもその度に、もうちょっと大きく

なったらとか、たくさん勉強したらねとか

言ってはぐらかしてた。




その内僕は時計を諦めてた、だって高いか

ら…

家もそんなお金持ちじゃないのが、大きく

なるにつれてわかったから。



でも、勉強は頑張った。

いつかいい仕事について、頑張って親孝行

するために。



中学に入って初めての期末テストで学年一

番になった。

そしたら、その年の誕生日に母さんがあの

時計をプレゼントしてくれた。



いつも笑って負けちゃダメよって言って。




母さんはちゃんと約束を守ってくれた。

だから、僕も約束を守るんだ。

いじめなんか大したことない…




……なのに、あいつらはそれを僕から取り

上げた。




取り返したいのに…僕にはそれも出来な

い。




学年一の不良に強くなれと言われた。

確かにそうだ。

僕が強ければ、取り返せたんだ。




でも、僕は彼みたいに強くなれない。



悔しい…悔しいよ。





…そうだ、彼はいつも頑張っていたじゃな

いか。



学校一の不良って言われているけど、彼は

部活を夜遅くまでいつも頑張っていた。




授業も眠そうにしながらも、成績はそこそ

こにいた。



たまたま帰りが遅くなった時、部活を終え

た彼が急いでどこかに行く姿を見た。



何か格闘技をやっているらしいから練習に

行くのだろう。


もうずいぶん遅いのに、まだ頑張るんだ…




僕は何をしてるんだろう…。



自分の大切なものぐらい、自分で守らな

きゃ。



彼のように頑張って、僕も強くなる。




そう決めて、僕は時計を盗った高校生を見

つけて返してくれと頼んだ。





でも、やっぱりだめだ…

僕なんかじゃ勝てない。



そしてそいつらは、僕の…時計を…壊し

た。



許せない…。

でも、僕には…勝てないよ……


悔しい……




…僕がもっと……強ければ……っ!!






そんな時、現れたんだ。


彼が。


彼は、強かった。


誰よりもカッコ良くて。





僕は思ったんだ。


篠崎 拓也は正義の不良だって!!





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この時計は壊れてるけど、直さない。


それが篠崎君と僕の友情の証だからっ。





「おぃ、タケっ!? ……タケーっ!!」


「へぁ!?」




タケがいつの間にか壊れた時計を握りしめながら俯いていたので、とりあえず頭をひっぱたいてやろうとしたのだが、突如顔を上げて来たのでこちらがビックリしてしまった。



(むむむ…俺のビビりはまだ克服出来ていないらしいな)




俺達は今中学で2回目の夏休みをこのクーラーでキンキンに冷えたタケの部屋で過ごしている所だ。


ついつい昔話に花を咲かせてしまったが、俺よりもタケの方がお花畑だったようだ。




「おぃタケ、その時計そんなに大事なら早

く直してもらえよ。」


「いいんだ。 これでっ。」


(友達になってくれて、ありがと。)




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「お、おいっ、なんか面白い事無いのかよ
っ!!」



タケのニヤニヤした笑みがかなりキモたん

だったので、話題を変えようと試みる。




「えっ、ぅーん…そうだなぁ~

あっ!! 拓也君っ!! 今日は津山で夏祭りの日

だよっ。 すっかり忘れてたなぁ。

花火もすごい上がるし、行ってみない!? 」



(こいつ…てっきり電波系と思っていた

が、アウトドアもいけるクチだったかっ。

くそ、カッコイイじゃねーか…)

それにさ、出店のくじ引きとかはすごいプ

ラモが意外とあるんだっ!



「結局そこかよ… て、なんで俺がお前み

たいなもさい奴と貴重な夏休みの最後

を……んっ!?」




そこで俺は気付いてしまった。



「おいっ!! 今なんつったぁ!!」


「えっ!?… 夏祭り…」


「じゃなくてっ!!」



「ぇーと…花火!? 」



「ちげーよぉ!! ぇーと…

あ、夏休みも終わりじゃねーかっ!!」




「……言ってないよ。」




(…あ。 それは俺の心の声か。)




そんなことより!!

もう夏休みは終わる。

と言うのに俺は、こんな男と夏祭り…


「あぁ……。」



思わず溜め息が漏れてしまった。




「あ、拓也君。 夏祭りと言えば女の

子、たくさん来るよねっ!!


やっぱり不良ってナンパとかするんでしょ!? 」





なぬ…。 ナン…ナン…難破船!!?





いゃいゃ、こんなオヤジギャグをかまして

いる場合ではないっ!!



そうか!! 女の子をゲットするチャンスはむ

しろ今かっ。




「タケっ!! ナンパだ。 ナンパ行くぞ!!

ん、 なんだ、そのパンパースみたいな格好

は。 着替えろ、すぐ着替えて来い。」



「えっ!? ぼ、僕もするの!? え、パンパース!?」



「それより浴衣だっ、お前みたいな素人

は浴衣に着替えてこいっ。」




分かったよぉと渋々ながら、タケは浴衣を探しに行った。



俺はと言うと…

学ランだ!!


夏休みなのになぜかって!?


よく聞いてくれた。


俺はな、この30度をゆうに越えるくそ暑い

夏だろうと、楽しい楽しい夏休みの真っ最

中にただ部活の為だけに向かう登校であろ

うと…


真っ黒テカテカの学ランだ。

それが…カッコイイ不良だからだ!!