静かな廊下を再び歩く。音楽室や美術室の並ぶこの付近は、今日は部活の生徒も姿がない。
階段を、踊っているかのような楽しげなリズムで駆け上がってくる音がした。それは、オレのいた階で止まる。曲がり角から頭が飛び出し、音の主がこちらに歩いてきて。
「澤ならもう行ったぞ」
「美月ちゃん、勝手に持ってっちゃったんです。私が届けるって言ったんですよっ」
「しかと受け取った」
「ううっ、残念。でも、今日はもう帰らないといけません。美月ちゃんを待たせてるみたいですし」
悔しがる様子でその場で跳ねると、ポニーテールが一緒に踊る。マスクにコートにマフラーを着込んだままそんなに暴れたら、暑くなって、その後は冷えてしまうだろうに。
「片山先生。では、今日は失礼します」
手本のような会釈をし、帰ろうとする藁科を呼び止めた。
「マフラー、クリーニングまでしてもらってすまなかった。……あと、伊藤先生に、もっかいちゃんと、おめでとうを言えたから、さ」



