「平気です。まだ深夜じゃないから」
「けど危な……」
「ひとりでっ!! ……帰りたいんです」
それは強い拒絶だった。当然か。あんな酷い態 度。酷いオレが……。
せめて、緊急用にと、携帯電話の番号を教えた。
「私なんかに教えちゃっていいの?」
「藁科は悪用しないだろ」
オレの言葉に、藁科は目尻を下げ、顔をほころばせた。
「……っ!?」
途端、花が咲いた。藁科が蕩けた表情で微笑んだ 時、そこだけ確かに、咲いたんだ。
「先生?」
「っ、いやっ、なんでもない……」
「それならいいです。――もう大丈夫ですね。いつもの片山先生だ」
藁科の声が、言葉が、暗くて狭い部屋に溶け込んでいく。
それは、なんて心地のいいことだろうと心が震えた。



