……――、
「……情けなかっただろ?」
「いいえ」
藁科は首を横に振る。
「私、あの時、先生を好きになりました」
「どこが……、どうなってだ?」
あんな情けない姿でどうして。
ずっと握りしめていた湯のみを解放し、藁科は背筋を伸ばした。そして、オレを射抜くように見つめるから逸らせない。
「私も大勢の中にいました。みんな、人が死んでしまうかもしれないのに、半笑いだったり、ケータイで写そうとしたり。私はそんなことしなかったけど……そこで何もせずいただけで、みんなと一緒。……私は残酷。美月ちゃんも同じこと考えてました。でも、考えただけだねって、それ以上、美月ちゃんも私も黙っちゃいました。今だって、何も変わらない。ニュースで殺人事件が伝えられてても、身近な誰か以外の人に何かあっても……私は、平気でテレビの前でご飯を食べていられるの。先生を見て、自分が情けなくて……恥ずかしかった」
「そっ、それは誰だってそうだ。藁科は優しい子だっ」
だから苦しくならないでいい。そんなふうだと、藁科を悲しくさせるほうが悪いって思っちまうじゃないか。



